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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)274号 判決 1999年12月14日

原告

【A】

被告

特許庁長官 【B】

指定代理人

【C】

【D】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成8年審判第11538号事件について平成11年6月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成6年2月14日、指定商品を第29類「乳製品」(なお、平成7年12月26日付け手続補正書で指定商品が「発酵乳・乳酸菌飲料・乳酸飲料・粉乳」に補正された。)とし、別紙記載のとおり「ヨーグルトきのこ」の文字を横書き二段にしてなる商標(以下「本願商標」という)について商標登録出願(平成6年商標登録願第12419号)をしたが、平成8年5月13日に拒絶査定を受けたため、平成8年7月12日付けで拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第11538号事件として審理した結果、平成11年6月30日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月28日、原告に審決書謄本を送達した。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである(ただし、平成11年9月10日付け更正決定により、3頁16行目の「同11月4日」は、「日経産業新聞1994年11月4日」と訂正された。)。要するに、自由国民社1995年(平成7年)発行の「現代用語の基礎知識」(本訴の甲第2号証)、1994年(平成6年)8月18日の日本経済新聞夕刊(本訴の甲第3号証)及び同年11月4日の日経産業新聞(本訴の甲第8号証)によれば、我が国の乳製品を取り扱う業界において、乳酸菌を発酵させてできたヨーグルト中きのこ状の形をし、ケフィアに似たものを「ヨーグルトきのこ」と称している事実があるから、「ヨーグルトきのこ」の文字よりなる本願商標を、その指定商品中「乳酸菌を発酵させてできたきのこ状のヨーグルト」に使用しても、単に商品の品質、形状を表示しているにすぎず、また、これを上記商品以外の商品について使用した場合には、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり、本願商標は、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し、登録をすることができない、とするものである。

第3  原告主張の審決取消事由

審決は、次のとおり、その認定判断を誤っており、違法であるから、その取り消されなければならない。

1  本願商標「ヨーグルトきのこ」は、原告発案に係る商標であり、原告が、平成5年8月1日以前に、既にケフィアないしケフィア粒(粒状のケフィアの種菌)を表示するものとして使用していたものである。

2  原告が本願商標を使用し始めた当時においても、本願商標を登録出願した当時においても、我が国のほとんどの人々は、ケフィアあるいはケフィア粒自体を知らず、これらについての情報も得ていなかったのであるから、本願商標である「ヨーグルトきのこ」が、ケフィアあるいはケフィア粒を表示する俗称あるいは普通名称としての意味を有することはあり得なかった。しかも、その後である平成6年8月の時点においても、本願商標「ヨーグルトきのこ」は、ケフィアあるいはケフィア粒の俗称あるいはこれらを意味する普通名称とはなっていなかった。このことは、主婦の友社発行の「ヨーグルトきのこが効く」との趣旨の記事(甲第5号証)からも理解し得るところである。

審決が指摘する自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」(甲第2号証)は、1995年(平成7年)に刊行されたものであるから、本願商標に係る商標登録出願時の事情を考慮する根拠とならない。なお、同書籍の記載は、平成7年になって初めて「ヨーグルトきのこ」が最新語として確立したことを示している。

また、日本経済新聞夕刊の記事(甲第3号証)は、業界において「ヨーグルトきのこ」がケフィアあるいはケフィア粒を意味する俗称として使用されているということを表しているものではなく、またケフィアあるいはケフィア粒、さらにはケフィアに似たものが業界で「ヨーグルトきのこ」と称されているということを表しているものでもない。当該記事は、ただ単に、ブームの最中に存する一般の人々、とりわけ一新聞記者(編集者)が、ケフィアを「ヨーグルトきのこ」と称しているという事実を表している域を出ない。

3  したがって、「「ヨーグルトきのこ」の文字よりなる本願商標を、その指定商品中「乳酸菌を発行させてできたきのこ状のヨーグルト」に使用しても、単に商品の品質、形状を表示しているにすぎず、また、これを上記商品以外の商品について使用した場合には、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあ」(審決書3頁17行目~4頁4行目)るとした審決の認定判断は、誤っているから、取り消されなければならない。

第3  被告の反論の要点

審決の認定判断は、正当であり、取り消されるべき理由はない。

1  原告は、「ヨーグルトきのこ」なる商標を創案し、かつ出願前にも使用していたというけれども、その事実を客観的に証明する証拠は提示されていない。

2  「ヨーグルトきのこ」の語は、創案者が誰であるかなどということには関係なく、審決時において、「ケフィア粒を使用して作った発酵乳の一種」を意味する語として、不特定多数の人々に使用され、需要者間に広く知られるに至っていた。したがって、本願商標は、「ケフィア粒を使用して作った発酵乳の一種」に使用した場合には、単にその商品の品質を表示するに過ぎないものとなるから、商標法3条1項3号に該当するものであり、それ以外のもの、例えば、「ケフィア粒を使用しないで作ったヨーグルト」等に使用した場合には、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあることになるから、同法4条1項16号にも該当する。審決の認定判断に誤りはない。

第4  当裁判所の判断

1  商標法3条1項各号該当性の判断による商標登録の許否が1つの行政処分であることは明らかであるから、その判断の基準時は、行政処分の本来的性格に鑑み、査定または審決の時と解するの相当である。

2  そこで、本願商標を構成する「ヨーグルトきのこ」の語が、本件の審決時である平成11年6月30日において、商品の品質、形状を表示するものであったか否かについて検討する。

(1)  甲第2号証によれば、自由国民社1995年(平成7年)発行の「現代用語の基礎知識」には、「95年の最新語」として、「ヨーグルトきのこ」が挙げられ、この説明として、「ヨーグルトの一種。発酵すると、きのこ状になることから、この名がある。肥満から高血圧まで、あらゆる成人病に効果があり、さらには便秘やアトピーを改善し、がんにも効くということで1994(平成6)年前半に話題になったが、実態は不明。ヨーグルトに詳しい食品衛生学者によると、コーカサス地方に昔から伝わる発酵乳「ケフィア」の変形ではないかという。ヨーグルトは乳酸菌だけで発酵させたものだが、ケフィアは乳酸菌と酵母で発酵させたもの。だが詳しく分析すると、日本のヨーグルトきのこは、ケフィアの菌と成分が違ってきているという。素人がつくると雑菌が増えて、これを培養し続ければケフィアは変化してしまうから、その効果も疑問。ヨーグルト以上のものではなく、せいぜい便秘に効く程度ではないかという。」との記載があることが認められる。

甲第3号証によれば、1994年(平成6年)8月18日の日本経済新聞夕刊には、「LL牛乳に思わぬ援軍」、「ヨーグルトきのこブームで販売急増」との見出しで、「健康に良いといわれる「ヨーグルトきのこ(ケフィア)」ブームを背景に、LL(ロングライフ)牛乳が人気を呼んでいる。」との記載があることが認められる。

乙第1号証によれば、1994年(平成6年)2月1日発行の「壮快」2月号で「ヨーグルトきのこ」の特集が組まれており、その中には、「ケフィアは、乳酸菌と酵母で牛乳を発酵させて作りますが、これを作るもとになるのが、ケフィア粒と呼ばれるヨーグルトきのこです。」(45頁)、「ケフィアは、ヨーグルトきのこ(ケフィア粒)を牛乳の中に入れておくと、1日前後(12~48時間)でできます。」(46頁)、「この「ヨーグルト」、本名をケフィア(またはケフィール)という。そして。「きのこ」をケフィア粒という。」(48頁)などの記載があることが認められる。

乙第2号証によれば、小学館1994年(平成6年)3月発行の「週刊ポスト」の「「ヨーグルトきのこ」の危ない話」という記事の中に、「その作り方だが、それ自体は簡単。用意するのは、ケフィア粒というヨーグルトきのこの元になる乳酸菌やさまざまな酵母から成る菌。」(211頁)との記載があることが認められる。

乙第4号証によれば、毎日新聞社1994年(平成6年)5月25日発行の「「ヨーグルトきのこ」ケフィールの秘密」(著者【E】)には、「今、新しいタイプの飲み物が脚光を浴びています。それは「ヨーグルトきのこ」という呼び名で呼ばれていますが、実は「ケフィール」という名前を持つ、れっきとした発酵乳なのです。」(16頁)との記載があることが認められる。

上記認定の事実によれば、本願商標の登録出願時である平成6年2月14日の時点において、既に、同年2月1日発行の「壮快」2月号に「ヨーグルトきのこ」についての特集が組まれていて、その名が広く知られ得る状態になっていたこと、また、遅くとも1994年(平成6年)中には、「ヨーグルトきのこ」の語は、「乳酸菌等で発酵させてできたきのこ状のヨーグルトの一種」を意味するものとして使用されたり、「ケフィア粒」を意味するものとして使用されたり、ケフィア粒によって発酵された発酵乳である「ケフィア」あるいは「ケフィール」を意味するものとして使用されたりするなど、その意味は必ずしも一定しないものの、いずれにせよ、ある種の発酵乳そのもの、あるいは、それを作る種菌を示すものとして、書物などを含め相当に広い範囲で使用されていたことが認められ、そうすると、本件の審決時である平成11年6月30日において、上記のような意味を有するものとして、一般需要者の間で広く知られる状態にあったものと推認することができる。

(2)  原告は、自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」は、1995年(平成7年)に刊行されたものであるから、本件商標に係る商標登録出願時の事情を考慮する根拠とならない旨主張するけれども、前記のとおり、商標法3条1項各号該当性の判断の基準時は査定又は審決時と解するのが相当であるから、主張自体失当というほかない。

また、原告は、1994年(平成6年)8月18日の日本経済新聞夕刊の記事は、業界において「ヨーグルトきのこ」がケフィアを意味する俗称として使用されているということを表しているものではなく、またケフィアあるいはケフィア粒、さらにはケフィアに似たものが業界で「ヨーグルトきのこ」と称されているということを表しているものでもないなどと主張するけれども、同記事によれば、「ヨーグルトきのこ」は、ケフィアと同視され、また、「健康に良いといわれる」ものということであるから、「ヨーグルトきのこ」が、ケフィアあるいはケフィア粒等の上記の意味を有するものとして、業界のみならず一般需要者の間において広く知られていたことを裏付ける一資料となり得ることは明らかである。原告の上記主張もまた失当である。

3  そうすると、原告の主張は、いずれも理由がなく、その他、審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第5  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

<省略>

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